以前他の投稿でも少し触れたのですが、最近読んだ本の中でとても深く印象に残ったのがこちら。
もう、とにかく話がリアル。何度も号泣しました。
現代の「女性」「男女」「夫婦」「家族」の形と悩み
キャリアと妊娠・出産の兼ね合い、再婚・子持ち男性との結婚、男性の育児休暇の現実と男性側の本音、不妊治療の辛さ、シングルマザー・ヤンママへの偏見、価値観の違う上の世代や周囲と分かり合えないもどかしさ、「妊娠=健康な子どもを出産できる」わけではないこと。
「産む、産まない、産めない」は、妊娠・出産をテーマにした小説です。実話を元に話が作られているのか、とにかく話がリアル。
親世代から男女観が著しく変わりつつあり、そして3組に1組が離婚する今。現代に生じている「女性」「男女」「夫婦」「家族」の色々な姿を描いています。
現在進行系で不安や悩みを抱える女性だけではなく、むしろ男性や上の世代の方こそぜひ読んでほしいと思える小説でした。
すべての大人に全力でおすすめします。
男性は特に3つ目のお話だけでも読んでみてほしい
「育児休暇」でグーグルの検索をかける。千三百八十万件もあった。アトランダムに拾い読みする。仕事をしながら子供を育てるって大変なんだなあと、他人事のように思う。「育児休暇」「男性」で検索し直すと、四十一万五千件だった。桁がふたつも違う。この数字が、男にとっての育児休暇が、いかにマイナーなことかを示している。
私自身女性として、キャリアの目指す先が分からなくなったり、女性特有の結婚・妊娠・出産の「タイムリミット」に悩まされたりすることがあります。
同じ女性同士でも、既に結婚・出産している人から心無い言葉(そして悪気もない言葉)をかけられることだってあります。
一方でこういった女性の妊娠・出産に関わる問題は、当事者の女性だけが苦しんで声を挙げても解決しない問題だと強く思うのです。
「私は、ただ同じ経験を共有して欲しいだけなのに。雄二も、その辺にいる男の人と同じなのね……」
胸をどんと突かれた気分だった。
(注:男性上司と育休を取ろうとする男性の会話)
「いつだったか、三上がいっていたよなあ。そういう時代だって。うちのお客様は九割が女性なんだから、男性社員が育児を経験してみるのも悪くないだろう。まあ、仕事の状況を考えて時期の相談をしてくれ」
「はあ……」
「一週間ぐらいでいいんだろう?かみさんのご機嫌をとるには。女が強いと、いろいろ大変だよな」雄二が年上の女房にいいくるめられて、しぶしぶ育児休暇をとろうとしていると勘違いしているようだ。あいまいな既成概念から離れることができないのだ、この人は。石倉があわれに思えてきた。仕事はできるかもしれないが、心が不自由だ。
「一週間では子供は育ちませんよ、部長。三ヵ月ぐらいの育休をいただければ、と思っています。」
「重松、まじでそんな時期に休むつもりなの?」
声がひっくり返っている。
「とりあえず、返事は保留にさせてくれないか」
石倉がいって、いつも通りの業務が始まった。すぐに久美子からメールがきた。──かっこいいじゃん! 勇気あるよね。私は応援する。絶対「男の育休」実現して。私たちのためにも。
すぐに返事を打った。
──ありがとう。部長が理解してくれればいいんだけどね。仕事のために仕事をするのではない。収入のためだけではないし、会社のためでもない。自分を含めた家族のために仕事をしている。そんなことを思った。
そして今の時代、育児に主体的に参加する男性が少しずつ増えはじめているからこそ、またそういった男性に対する周囲の理解がまだ十分に追いつき切れていないからこそ、家族のために勇気を出そうとしている男性を応援したい。
そのためにも、この「声がひっくり返っている上司」や「その辺の男の人(ここでは、育児含め家庭のことを女性の仕事だと思っている男性という意味合い)」のような人にこそ、この話が届けば良いなと思っています。
この本に「正解」は書かれていない
つい熱くなって紹介してしまいましたが、この本にはそういった悩みや問題に対する「答え」が書かれているわけではありません。
人生に正解がないのと同じで、「産むのが偉い(?)」「産まない・産めない人はこうするべきだ」といったメッセージはありません。ひとりひとりが自分の人生を、自分の判断で正解にしていくしかないのだなと感じます。
私がこの小説を薦めたいと思ったのは、小説がとてもリアルなので、たとえ同じ境遇でなくても共感・感情移入がしやすかったからです。何度も泣きましたし、もし友人や家族が同じ境遇になったら自分はどうするだろうと考える良いきっかけにもなりました。
遠いことのように感じる人もいるかもしれませんが、これからもっと家族の形や男女・夫婦の関係は変わっていくと思います。
男性も女性も、年齢問わず一度「自分が妊娠・出産・男性の育児などに対してどう考えているか」を振り返ってみてはいかがでしょうか。